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平成15年8月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成12年(行ウ)第6号 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
(口頭弁論終結日・平成15年3月18日)

判 決

京都市***
原 告  金 洙榮

以下、原告団の氏名・住所はプライバシー保護のため伏せます(支える会)。

上記7名訴訟代理人弁護士   小野誠之
同  坂和  優
同  金  京富
同  池上哲朗
同  武田信裕
同  中田正義
同  伊山正和
同  大杉光子
同  宮本恵伸

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被 告  国
同代表者法務大臣 森山眞弓

同区霞が関1丁目2番2号
被 告  社会保険庁長官
堤  修三
被告両名指定代理人 鈴木和典
同    池上  進
同  木下不二夫
同    石倉裕子

主 文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一 請求

一  京都府知事が、原告らに対し、別紙・一覧表「処分日」欄記載の各日付でした障害基礎年金を支給しない旨の各処分は、いずれも取り消す。

二  被告国は、原告らに対し、それぞれ2493万6000円を支払え。

第二 事案の概要

 本件は、幼少時から感音性難聴等の障害を有する在日韓国・朝鮮人である原告ら(ただし、原告****及び同****は帰化して日本国籍を取得している。)が、京都府知事に対し、障害基礎年金を給付する旨の裁定を求めたところ、京都府知事は、昭和56年法律第86号による改正前の国民年金法のいわゆる国籍条項等に基づいて、障害基礎年金を支給しない旨の各処分をしたが、このような国籍条項及び国籍条項が改正により削除された後も改正前にすでに不支給状態となった者については従前の例によるものと定めた法律の各規定は、在日韓国・朝鮮人を不当に差別するものであり、憲法14条1項及び国際人権規約に違反し無効であるから、これを根拠としてされた上記各処分は違法であるなどと主張して、それぞれ上記各処分の取消しを求めると共に、上記の国籍条項及び法律の各規定に関する国会の違法な立法行為ないし原告らに対し何らの救済措置も講じない立法不作為により、原告らは本来得られるべきであった障害基礎年金を逸失し、また精神的な苦痛を被ったとして、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ上記逸失利益及び慰謝料の支払を求めた事案である。

一 争いのない事実等

  (1) 国民年金法(昭和34年4月16日法律第141号)は、農業者、自営業者等を対象とした年金制度を創設し、厚生年金保険、各共済組合制度と共に国民皆保険制度を確立するものとして、昭和34年11月1日に施行された。

(2)  難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年法律第86号、以下「整備法」という。)による改正以前の国民年金法(以下「旧法」という。)7条1項は、旧法による拠出制の国民年金の被保険者の資格について、「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の日本国民は、国民年金の被保険者とする。」と定め、日本国籍を有しない者を除外していた。また、旧法による無拠出年金制度による補完的な障害福祉年金の支給要件を定めた旧法56条1項は、そのただし書で「その者が、廃疾認定日において、日本国民でないとき(中略)は、この限りではない。」とし、同じく経過的な障害福祉年金の支給要件を定めた旧法81条1項も「第56条第1項本文の規定にかかわらず、その者に同条の障害福祉年金を支給する。」と定め、結局、障害福祉年金についても、日本国籍を有しない者を支給対象から除外していた(以下、旧法56条1項ただし書を「国籍条項」、その内容を「国籍要件」ともいう。)。

(3) 昭和56年、我が国が難民の地位に関する条約(昭和56年10月15日条約第21号、以下「難民条約」という。)を批准したことに伴い制定された整備法2条により、旧法7条1項中「日本国民」の文言は「者」に改められ、同法56条1項ただし書は削除された。これによって、国民年金制度における拠出制年金の資格及び無拠出制年金の障害福祉年金の受給資格の双方に関して、国籍要件が撤廃された。この改正法は、昭和57年1月1日から施行された。

 しかし、従前国籍要件が存在したため障害福祉年金が支給されなかった者に対して、支給を認める何らかの措置が講じられることはなく、整備法附則5項では、「この法律による改正前の国民年金法による福祉年金が支給されず、又は当該福祉年金の受給権が消滅する事由であって、施行日前に生じたものに基づく同法による福祉年金の不支給又は失権については、なお従前の例による。」とされた。

(4) その後国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号、以下「昭和60年改正法」という。)により、障害福祉年金は障害基礎年金に裁定替えされ、同法は、昭和61年4月1日から施行されたが、同法附則32条1項においても、「旧国民年金法による年金たる給付(中略)については、(中略)なお従前の例による。」とされ、従前国籍要件が存在したため障害福祉年金が支給されなかった者については、障害基礎年金が支給されないこととされ、同じように、補完措置ないし救済措置は講じられなかった。

  (1) 原告らは、いずれも、幼少時に感音性難聴等の原因により重い障害の状態となり(身体障害等級表による1級または2級)、その状態が現在も継続している者である。各原告の生年月日及び国籍は、それぞれ別紙・一覧表の各該当欄記載のとおりである。

(2)ア  原告らは、別紙・一覧表「裁定請求日」欄記載の各日付で、当時の国民年金法において原告らの障害基礎年金の給付を受ける権利を裁定する権限を与えられていた京都府知事に対し、国民年金法に基づき、それぞれ上記裁定を請求した。

イ  これに対し、京都府知事は、いずれも、国籍要件を欠くことを理由として、原告らに対し、それぞれ別紙・一覧表「処分日」欄記載の各日付で、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)をした。

(3)ア  原告らは、本件各処分を不服として、平成10年10月19日付で、京都府社会保険審査官に対し、それぞれ審査請求を行ったが、同審査官は、同年12月16日付で、原告らの上記審査請求をいずれも棄却する旨の決定をした。

イ  原告らは、原告らは、上記決定を不服として、平成11年2月5日、社会保険審査会に対し、それぞれ再審査請求を行ったが、同審査会は、同年12月24日付で、原告らの上記再審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

  被告社会保険庁長官は、平成12年4月1日、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)の施行によって、同法199条により、国民年金法3条2項中の国民年金事業の事務の一部を都道府県知事に行わせることができる旨の規定が削除されたことに伴い、同法16条に基づき、障害基礎年金の給付を受ける権利の裁定に関する事務を行うこととなった。


二 争点

  (1) 国籍条項、すなわち、障害福祉年金の支給に関し国籍要件を定めた旧法56条1項ただし書は、憲法14条1項または国際人権規約に違反して無効かどうか。

(2)  改正による国籍要件の撤廃後もなお従前の例によるとした整備法附則5項及び昭和60年改正法附則32条1項の規定は、憲法14条1項または国際人権規約に違反するかどうか。これらの改正の際、在日韓国・朝鮮人の無年金障害者のための救済措置を講じない立法不作為は、憲法14条1項または国際人権規約に違反するか。

  国籍条項、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項に関する国家公務員の立法行為、または在日韓国・朝鮮人の無年金障害者のための救済措置を講じない立法不作為は、国家賠償法上違法か。

  損害額


三 争点に対する当事者の主張

 争点1について

(原告らの主張)

(1) A規約2条2項、9条及びB規約26条違反

ア 国際人権規約の効力と解釈

(ア) 国際人権規約の国内的実施
 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第6号、以下「A規約」という。)及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(同日条約第7号、以下「B規約」という。)は、日本国において、昭和54年6月21日に批准され、同年9月21日に発効した(昭和54年外告187)。その効力については、特別の国内法を制定する必要はなく、条約が公布されることによって国内法的効力を持つに至る。そして、A規約及びB規約(以下、両者をあわせて「国際人権規約」ともいう。)は、その内容に鑑み、原則として自力執行的性格を有し、国内での直接適用が可能であると解されるから、これに抵触する国内法はその効力が否定される。

(イ) 国際人権規約の解釈
 条約法に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約」という。)は、国際条約の解釈に関し発展してきた国際慣習法を公式的に集約し、条約の解釈方法を定めた条約である。同条約は、昭和55年1月2日に発効し、遡及効を持たないため、それ以前に発効した国際人権規約に形式的には適用されないが、同条約の内容は古くからの国際慣習法を規定しているものであるから、その内容が国際慣習法として、国際人権規約にも適用される。

 ウィーン条約27条は、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することはできない。」としており、いったん留保なく条約を締結した以上は、憲法を含む国内法の解釈論を持ち出して、条約上の権利を制限することはできない。

 また、同条約31条1項は、「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」としている。国際人権規約の趣旨・目的は、B規約2条1項(「この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。」)に述べられているとおりであり、国際人権規約の条文の意味に疑問があるときは、同規約は個人にとって広く有利に解釈されなければならない。

 更に、ウィーン条約32条によれば、解釈の補助として補足的資料を用いることができ、この補足資料には、ウィーン条約の伝統的解釈として(1)条約の準備作業段階の事情(32条)、(2)条約に基づく判例法(31条3項(b))、(3)判例法が不十分な場合は同種の他の条約の同一又は類似の条項に関する判例法が含まれる。国際人権規約の解釈に当たり許される補足手段は、(1)規約の準備作業段階の記録、(2)規約の判断的意見をもつ規約人権委員会の出版物、(3)同種の他の条約とその判例法である。

 以上より、日本の裁判所が規約の解釈をする場合の手順としては、まず上記の解釈原則と補足手段のみに基づいて規約上の権利の範囲を決定し、次に、規約上の権利の侵害の有無を判断するために、事実に対してその保護されるべき範囲を決定すべきである。その際、規約上の権利の範囲の決定ないし制限のために公共の福祉、立法裁量論等の国内法的原理を適用されることは許されない。けだし、そのような国内法的原理は規約の文言にもなく、国際法的に確立された解釈原理によっても許されないからである。

(ウ) B規約26条の適用範囲
 B規約26条は、「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」として、法の下の平等及び差別取扱いからの自由を規定している。

 同条項には、国籍そのものは差別禁止事由に含まれていないが、規約人権委員会は、国籍は同条項の「他の地位」に該当するとの見解を示しており、同条項が国籍による差別を禁止していることは明らかである。

 また、B規約26条は自由権規約に属するため、一見自由権に属する権利の平等のみを保障しており、本件のような社会権規約に属するような権利の問題については適用がないかに見える。しかし、規約人権委員会では、「一般的意見18」12項ブリークス対オランダ事件における「見解」等から明らかなように、同条項は社会権規約に規定された権利についても差別してはならないことを規定していると解されている。したがって、社会権規約に属する権利に関しても、B規約26条が適用されることは明らかである。

(エ) B規約26条の解釈基準
 規約人権委員会の「一般的意見18」13項によれば、B規約26条で禁止される「差別」に該当するか否かは、「基準が合理的であり、かつ客観的である場合であって、かつまた本規約の下での合法的な目的を達成するという目的で行われた」か否かが基準となる(「合理的かつ客観的な基準」)。この基準は、日本の裁判所が憲法14条1項の解釈について採用する「緩やかな合理性の基準」(多くは立法裁量論などと結びつけて主張されるもので、別異取扱いが一定の合理性さえ持てば許されるという審査基準)よりもはるかに厳格なものである。

 そして、アウメルディ・チフラ外対モーリシャス事件、ブリークス対オランダ事件、パウゲル対オーストリア事件、ゲイエ外対フランス事件、アダム対チェコ事件、イェルヴィネン対フィンランド事件、フォワン対フランス事件における規約人権委員会の「見解」からも明らかなように、単なる国家側の「保安上の理由」「行政上の理由」「財政的な理由」等はそれだけでは別異取扱いを正当化する根拠とはならず、また、B規約26条に違反するかどうかの決定的要因は、立法者の意図ではなく、制定された法律の結果であり、同条項は差別的な目的または効果を有する取扱いの双方を禁止している。更に、別異取扱いが正当化されるためには、当該立法を行う「具体的な必要性」及び厳密な「合理性」が要求され、また、合理性の基準は固定的ではなく、社会情勢や国際環境の下で変化する。

 また、別異取扱いが「合理的かつ客観的な基準」に基づくか否かを判断する際には、比例原則すなわち国家の正当な目的を達成するために必要最小限度の制約のみが許されるとの原則が適用されなければならない。

(オ) 挙証責任
 B規約26条違反が問題となる場合、これを主張する者は、当該国家の行為が差別的効果を有するものであることを一応証明すれば足り、その後は、国家の側が当該別異取扱いが「合理的かつ客観的な基準」を満たす正当な区別であることを主張・立証する必要が生ずる。

(カ) 以上のとおり、規約人権委員会が採用する「合理的かつ客観的な基準」は、国内裁判所で憲法14条1項の解釈の際に採用される「緩やかな合理性の基準」とは全く異なる厳格な基準である。

 このような厳格な基準による審査がなされるべきことは、差別の対象となっている規約上の権利の種類によって異なるものではない。すなわち、自由権と社会権では異なる合理性の基準を採用すべきとの議論もあるが、社会保障をどのようにすべきかという社会権規約上の権利自体の問題と、社会保障をするに当たって差別があってはならないというB規約26条の差別禁止の問題とは厳然と区別され、仮に差別の対象が社会権規約に属する権利の場合であっても厳格な基準が採用される。

 よって、本件においても、B規約26条違反の審査には、「合理的かつ客観的な基準」に基づく厳格な審査が行われなければならない。

(キ) また、A規約2条2項も自動執行的性格を有するから、A規約2条2項、9条に違反する法律の規定は無効である。そして、A規約2条2項は、「客観的な基準」に基づく区別でない限りこれを許容しない趣旨である。

(ク) 以上のとおり、国際人権規約の締約国たる我が国においては、本件国籍要件がA規約2条2項、9条及びB規約26条の要求を満たしているかどうかについて検討すべきである。

 そして、異なるカテゴリに属する者同士の間に、国家の施策上の別異な取扱いをすることは原則的に許されず、これが許されるためには、当該別異取扱いを行うことの目的が、規約の下において正当な目的を達成するためであり、かつ、そのために選ばれる手段が目的達成のために必要最小限度でなければならない。この理は、問題とされている人権が、A規約に属するものであるとB規約に属するものであるとを問わない。

 しかも、ここにいう「正当な目的」とは、当該立法を行うための具体的な必要性に対処するためのものでなければならず、かつ、仮に国家が主観的な差別意図を有していなくても、結果的に差別的な取扱いを招来していれば、目的の正当性は失われる。

イ 本件へのあてはめ

(ア) 被告らの主張によれば、国籍条項を設けた立法目的は、「社会保障の帰属国家責任論」と「掛け捨て弊害論」の2点に集約され、国会における議論の経過を見ても、これ以外の独立した立法目的を見いだすことはできない。しかし、これらの立法目的は、いずれも「正当な目的」に基づくものということはできず、かつ、国籍要件による一律排除という手段が目的達成のために必要最小限の手段であるということもできない。

(イ) このようにみてくると、旧法下の国籍条項は、憲法14条1項及び国際人権規約に違反する無効な規定であり、遅くとも昭和54年に我が国が国際人権規約を批准し、同年9月21日、これが発効した時点で撤廃されるべきであった。その直後である昭和54年10月31日には、「在日韓国・朝鮮人の国民年金を求める会」が発足し、在日韓国・朝鮮人に対しても年金支給を認めるよう、厚生省に対して再三にわたって申し入れを行っており、被告国は国籍条項の違法性を明確に認識していたことは明らかである。

 仮に、国際人権規約の批准時において、国籍条項の違法性を明確に認識できず、国籍要件の撤廃が困難であったとしても、昭和56年の難民条約の批准により整備法を制定して国民年金法の国籍要件を撤廃した時点で、難民条約の内外人平等の趣旨は、当然に在日韓国・朝鮮人全般に適用されるべきものであり、原告らに対しても、経過措置を講じて障害福祉年金を支給すべきであった。

 しかし、被告国は、あえて整備法附則5項を設けて、従来の法律関係に影響を及ぼさないものとし、原告らを排除する旨を明文で積極的に規定し、更に、その内容は、昭和60年の国民年金法の改正時にも、同趣旨の昭和60年改正法附則32条1項により維持された。

(ウ) そのため、整備法による改正後は、障害認定日において日本国籍を有しておらず、かつ初診日が20歳未満であり障害認定日後に20歳に達した者の中で、昭和57年1月1日以降に満20歳の誕生日を迎える者は、障害福祉年金または障害基礎年金の支給が受けられるが、同日より前に満20歳の誕生日を迎える者は、これらの支給が一切受けられないということになった。これは、誕生日がある特定の日以降であるか否かというだけで、きわめて不平等かつ不合理な状態に置くものである。

 また、我が国は、昭和56年に難民条約を批准しており、障害基礎年金をはじめとする国民年金制度における年金の支給要件として国籍要件を設けることの合理性は明確に否定されるに至っている。しかし、原告らは、消費税をはじめとする租税負担はその要件に応じて日本国籍を有する者と全く同様に負担してきたにもかかわらず、租税を主たる財源とする社会保障制度に基づく給付について、このように国籍要件による差別を受け続けることになった。

 更に、原告ら在日韓国・朝鮮人は、自らの意思とは全く無関係に日本政府の植民地支配により一方的に日本国民とされ、その後また一方的に日本国籍を喪失させられたものであり、これを差別することの不当性は一層明白である。

(エ) 国会は、整備法による国籍要件の撤廃に伴い、国籍条項が存在したため障害福祉年金が支給されなかった原告らに対しても、支給を認めるための措置を講じるべきであったのに、これを講じなかったばかりか、あえて整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項を定め、国籍要件の撤廃による効力を遡及させないことを明らかにしたのであり、このような立法措置はA規約2条2項、9条及びB規約26条に明白に違反する。

(2) 憲法14条1項違反

ア 前記(1)のとおりであるから、旧法下の国籍条項、整備法による改正及び昭和60年改正法による各改正の際の立法措置は、憲法14条1項にも違反する。

イ また、憲法98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に尊守することを必要とする。」と規定しており、これは、憲法と国際法とは調和して解釈されなければならないという国際法調和性の原則を明言したものである。すなわち、同条は、国際法調和性の原則を通じて、日本国を拘束する国際法を尊重するという国民の意思を特別に憲法的地位に高めている。このような国際法調和性の原則からは、憲法規定の内容の具体化・明確化等の解釈をするに当たっては、日本国が締結した条約については、法形式上これに優位する憲法の規定を解釈するに当たっても、できる限り条約と適合する内容の解釈を行うことが国内裁判所に対して法的に要請されているのであって、単に裁判所が憲法解釈において関連する条約規定を任意ないし適宜に参照すれば足りるというものではない。具体的には、条約が憲法よりも保障範囲を拡大しているような場合、あるいは憲法規定に関し複数の解釈可能性がある場合には、憲法を条約適合的に解釈することが要請される。

(3) このように、旧法下の国籍条項は、A規約2条2項、9条及びB規約26条、それに憲法14条1項に違反して無効であって、その後の経緯に照らしても、京都府知事は、原告らの別紙・一覧表のとおりの裁定請求に対し、国籍条項を除いた国民年金法の規定に従って、給付を受ける権利の裁定をすべきであった。

(被告らの主張)

(1) 憲法14条1項違反の主張について
 憲法14条1項は、絶対的な法の下の平等を保障したものではなく、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら同規定に違反しない。立法府が法律を制定するに当たり、その政策的、技術的判断に基づき、各人についての経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異または事柄の性質上の差異を理由としてその取扱いに区別を設けることは、それが立法府の裁量の範囲を逸脱するものでない限り、合理性を欠くということはできず、憲法14条1項に違反するものではない。

 国民年金制度は、憲法25条2項の規定の趣旨を実現するため、老齢、障害、または死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし、保険方式により被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行うことを基本として創設されたものである。また、福祉年金は、制度発足当時においてすでに老齢または一定程度の障害の状態にある者、あるいは保険料を必要期間納付することができない見込みの者等、保険原則によるときは給付を受けられない者についても同制度の保障する利益を享受させることとして、補完的または経過的な制度として、国民年金の一環として設けられたものである。

 障害福祉年金は、制度発足時の経過的な救済措置の一環として設けられていた全額国庫負担の無拠出制の年金であって、立法府はその支給対象者の決定について、もともと広範な裁量権を有している。また、社会保障政策における外国人の取扱いについては、国は、特別の条約が存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができる。

 国民年金制度の設計に当たっては、保険料負担額、給付の水準、拠出対象者の範囲、国庫の負担等幅広い観点から検討しなければならず、その一部として外国人の負担と給付のあるべき姿を検討すべきものである。そして、国民年金制度は拠出制の社会保険形式を基本とするものであり、その拠出を行う被保険者についても、旧法7条により日本国民に限られていた。長期間にわたる保険料の拠出を要する年金制度において、制定当時として拠出制の対象者から外国人を除くとしたことは、政策的判断として特段不合理なものではない。更に、福祉年金については、その対象者を、国民年金制度がもっと前から発足していれば拠出制の対象者となったであろう者を経過的福祉年金として、また、被保険者となることを予定しながらそれ以前に障害を負った者を補完的福祉年金として救済しようとしたものであり、拠出と給付の関係を無視して給付対象者の範囲を設定しているものではないのであり、拠出制の対象者と同様、外国人を除外することは合理的な区別である。

 なお、整備法は、我が国が難民条約(昭和56年10月15日条約第21号)及び難民の地位に関する議定書(昭和57年1月1日条約第1号)へ加入するに当たって国内法を整備するために制定された法律であり、その目的とするところは、難民条約への加入という人道的見地からなされたものであって、過去の国籍要件の設置そのものが不合理であったという理由でされたものではない。整備法による国籍条項の削除の効果を遡及させるというような特別の救済措置を講ずるかどうかは、もとより立法府の裁量に属することである。

 よって、旧法下の国籍条項は、憲法14条1項に違反しないし、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項により国籍要件の撤廃を遡及しないとしたことも、憲法14条1項に違反するものではない。

(2) 国際人権規約違反の主張について

ア A規約違反の主張について
 A規約に定める権利について、無差別の原則による権利の保障が義務付けられているとはいっても、その義務は、法上の義務ではなく、司法的に実現可能な権利の保障義務を締約国に課するものではない。すなわち、A規約は、そこに掲げる社会権の漸進的実現を締約国に促進させるにすぎないのであり、A規約に掲げられた権利の完全な実現を「漸進的に達成するため」(2条)、立法措置その他適当な方法をとること及び個別的、国際的な経済的、技術的な援助または努力を行うことを義務付けるものであって、その義務は政治的性質の義務であるというべきである。このように、A規約は、社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し、締約国において、その権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したにすぎない。

 このように、A規約上の権利については、もともと各国の立法政策によることが許容されているのであり、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであると共に、その規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって、具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。

 そして、障害福祉年金の給付に関し、自国民を在留外国人に優先させることとして在留外国人を支給対象から除くこと、また廃疾の認定日である制度発足時の昭和34年11月1日において日本国民であることを受給資格要件とすることは立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであり、このような取扱いの区別については、その合理性を否定することができない。国籍条項は、A規約2条2項、9条に反することにはならない。

イ B規約違反の主張について
 B規約26条は、あらゆる差別をすべて禁止する趣旨ではなく、合理的な区別が許容されることは、規約人権委員会も認めるところである。そして、合理的な区別か否かの判断は、同条の文理から一義的に導くことはできないが、社会権等を規定するA規約9条については、権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものと解されており、A規約上の権利については、もともと各国の立法施策によることが許容されているのであるから、A規約とあわせて審議、採択されたB規約26条の平等原則における合理性の有無の判断基準についても、このことを考慮した解釈がされるべきである。そうすると、国民年金制度における支給対象者及び外国人の取扱いについて、立法府に広い裁量権が認められ、在留外国人を支給対象から除外して自国民を優先的に取り扱うことには合理性があり、この理はB規約26条にも当てはまるというべきであるから、国籍条項、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項がB規約26条に反する旨の原告らの主張は失当である。

 なお、ウィーン条約はB規約には適用されず、また、同条約27条は条約の解釈と国内法の関係について定めたものではない。更に、同条約31条1項の解釈原則に従うとしても、B規約2条1項が国家に対する個人の保護を目的としていることから直ちに、個人の権利自由にとって広く有利に解釈されなければならないということにはならない。

 規約人権委員会は、B規約40条4項に規定されているとおり、B規約の締約国の規約の履行状況に関する報告を検討する機関であり、その示した見解が、締約国に対し法的拘束力を有するものではない。条約の解釈・適用権限が締約国に属する以上、我が国の裁判所が、国際人権規約を憲法の人権規定と同じ趣旨であると解したとしても、それ自体に何ら法的問題はない。

ウ このように、旧法の国籍条項、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項は、いずれも、国際人権規約に違反しない。

 争点2について

(原告らの主張)

(1) 旧法下の国籍条項、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項の各規定は、前記のとおり、国際人権規約及び憲法14条1項に違反し、かかる立法措置は、原告ら在日韓国・朝鮮人を不当に差別するものであって、原告らに対する不法行為に該当する。

(2) 立法行為の違法性の判断に当たっては、立法行為は議会制民主主義の下での多数決原理によって行われるものであるから、少数者の人権侵害が問題となる場面での憲法保護という司法の役割が考慮されるべきである。よって、(1)少数者に対する人権侵害の重大性、(2)その救済の現実の必要性、(3)国会による立法の必要性の認識、(4)立法の可能性・容易性、(5)具体的な当該立法不作為は国家賠償法上違法といえる。

 原告らは、在日韓国・朝鮮人であり、かつ障害者であるという二重の意味で少数者であるが、原告らが国籍条項廃止による経過措置がないために障害基礎年金を受けられないことは、平等原則違反であり、きわめて重大な人権侵害である。また、原告らは経済的に非常に不安定な立場に置かれており、年金が支給されないことによる不利益は日本国民の場合以上に著しく、救済の現実の必要性は非常に高い。

 また、国会は、昭和60年の国民年金法改正の際に、衆議院においては「無年金者の問題については、今後とも更に制度・運用の両面において検討を加え、無年金者が生ずることのないよう努力すること。」、衆議院においては「無年金者の問題については、適用業務の強化、免除の趣旨徹底等制度・運用の両面において検討を加え、無年金者が生ずることのないように努力すること。」、との附帯決議を行っている。ここでいう「無年金者」には、原告らのように国籍条項によって障害基礎年金を受けられない在日外国人障害者も当然に含まれている。すなわち、個々の議員、大臣というレベルにとどまらず、両議院として立法の必要性を認識していた。したがって、国会議員らは、どんなに遅くとも昭和60年には、明確に国民年金法の国籍要件の違憲・違法性を認識していた。

 そして、当時、これらの無年金障害者について、経過措置を設けるなどして何らかの対応策をとることは、沖縄復帰時、小笠原諸島復帰時、帰国した中国残留邦人など国民年金法の対象を拡大する際に経過措置を設けた例があることに照らしても、可能かつ容易なことであり、立法定立に要する合理的期間としては1年もあれは十分であった。

 よって、遅くとも上記附帯決議から1年を経過した昭和61年ころには、合理的期間を経過して、立法不作為が国家賠償法上違法状態にあったことは明白である。

(被告らの主張)

(1) 立法行為の違法性の主張について
 国籍条項、整備法附則5項、昭和60年改正法附則32条1項に関する立法措置には合理的な理由があり、違憲でもなく、国際人権規約違反でもなく、そもそも何ら違法なものでない。このことは前記の被告らの主張のとおりであるから、原告らの主張はその前提において失当である。

(2) 立法不作為の違法性の主張について
 立法不作為が違法と評価されるのは、少なくとも憲法上、具体的な立法をすべき作為義務が、その内容だけでなく、立法の時期も含めて明文をもって定められているか、または、憲法解釈上、その作為義務の存在が一義的に明白な場合でなければならないというべきである。しかし、憲法上作為義務を定めた規定は存在せず、憲法解釈上も作為義務を肯定することは困難であるから、立法不作為が国家賠償法上違法となることは、基本的に想定し得ない。

 憲法14条1項は絶対的平等を求めるものではなく、合理的区別は許容するものである上、国民年金制度における支給対象者の決定及び在留外国人の処遇について、広範な立法裁量が認められることからすれば、憲法解釈上、原告らが主張するような立法措置を講ずべきことが一義的に明白であったとは到底いえない。

 争点3について

(原告らの主張)

 被告国の前記の差別的立法行為または立法不作為により、原告らは年金受給権を剥奪されたが、原告らには遅くとも昭和56年度分からは障害福祉年金及び障害基礎年金を受給する権利があり、同年度から平成11年度までのその受給額は、合計1493万6000円となるから、原告らは、同金額に相当する経済的損害を被った。

 また、原告らは、いずれも幼少のころから障害を負っているばかりか、それに加えて国籍による差別という二重の差別を受け、多大な精神的苦痛を被っている。更に、原告らには障害福祉年金及び障害基礎年金が支給されていないため、その支給者を対象とする様々な給付ないし措置がすべて適用されず、そのことも原告らを更に苦しめる結果となっている、これらにより、原告らが被った精神的損害は、少なく見積もっても1人当たり1000万円を下回るものではない。

(被告らの主張)

 原告らの主張を争う。

後半 「第三 当裁判所の判断」 へ続く


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